21016109

人文社会HSS507z 

3年, 4年前学期水5

科学技術と人間

Science,Technology and Human

高橋(幸)・田中(基)・小濵・松尾

単位区分

単位数: 2単位
必修
課程・類・プログラム
種別
先端工学基礎課程

関連Webサイト

WebClass開設(課題レポート提出および遠隔授業で実施する回)

主題および達成目標

[講義の主題]
「科学技術」というキーワードを通して、人間存在について考えるオムニバス講義。哲学・倫理思想の観点から、とりわけ、日本における科学技術と人間存在について、4名の担当講師がそれぞれの専門分野の知見や実務経験に基いて、問いを立て、考察してゆきます。人間存在とは何か―倫理・社会の内において、また、自然・環境の内において、人が生きている、あるいは、よく生きているとはどういうことか―を問う講義ですので、一定の「正解」を導き出したり、「知識」として修得することを目指す講義ではありません。各講師が示す考察の材料や考察の過程を踏まえて、各講師が立てた問いについて、履修者各々が自ら考察を深めて下さい。

※担当講師が主題とする専門分野※
第1部(全6回):小濵聖子 …日本倫理思想史(仏教)、研究倫理
→第2回:高橋幸平 …古代ギリシア倫理思想(アリストテレス)
第2部(全3回):松尾善匠 …日本古代・中世仏教思想(浄土教)
第3部(全5回):田中基寛 …科学史・科学哲学、「環境と経営」の実務

[講義の目標]
担当講師が設定した主題について、講義で示された資料・文献・参考書などを用いて、受講者各自があらためて問いを立て、考察を深め、考察した内容を論述して示すことを目標とします。

前もって履修しておくべき科目

特に必要としない

前もって履修しておくことが望ましい科目

特に必要としない

教科書等

[参考書]第2回(高橋幸平)・第3部(田中基寛)
勢力尚雅編『科学技術の倫理II』(梓出版社,2015,ISBN978-4-87262-036-8)

授業内容とその進め方

4名の担当講師がオムニバス形式で講義を行う。全体は以下の3部+1回から構成される。

[第1部]『現代日本社会にいたる・における科学技術を考える』
<担当講師:小濵聖子(第1、3~7回)、全6回>
<担当講師:高橋幸平(第2回)>
われわれ人間は科学技術を手に入れることによって、生活を便利に、快適にすることに成功してきたと言ってよいでしょう。そして多くの人間は、単に便利な生活を送ることから、豊かな生活を楽しむことを求めるでしょう。また、それは良いことだと一般的に考えられています。しかし、それは果たして本当に幸福な(よい)人生を送ることになるのでしょうか。第1部では現代日本社会における科学技術の問題についていくつかの視点から考察します。

〇第1回『講義全体の説明および導入』
・ 講義の概要、課題の提出⽅法、成績評価などの説明。※履修希望者は必ず出席して内容を確認してください。
・ 導⼊ 『日本の思想における科学技術の輸入:近世から近代における唯物論』
日本において科学技術がどのような「前提」のもとで構築されてきたのかを考えようとするなら、近代における唯物論の思想的な「輸入」に触れざるを得ません。しかし近世以前の日本の思想的伝統にも唯物論は見ることができます。我が国において科学技術(および現代社会)がどのような世界観によって⽅向づけられているかを確認します。

〇第2回『「科学技術」ということば―技術・科学(学知)と科学技術―』※オンデマンド型遠隔授業
導入の続きとして、科目名である「科学技術(technology)」ということばの意味を、アリストテレスに遡って考察します。現代の辞書でtechnologyの語源とされているアリストテレスの「technologein」について、語源とされる原典にあたり、辞書の解釈を批判的に検証します。以上の作業を通して、アリストテレスにおいては「技術(technē)」は「学知(epistēmē)」(=科学)と重なることばであり、現代の「科学技術」に相当することを示します。

〇第3回『⾃然とかかわる技術としてのカミ祀り』
前講から翻って、⽇本における科学技術のあり⽅について理解を深めるうえで、前提となっている思想的な背景に関する講義を⾏います。古代⽇本では⾃然とかかわる技術としてカミ祀りが⾏われていました。古代の⾃然観‧⼈間観‧技術観を学び、それが現代⽇本にも受け継がれていることを⽰します。それによって、受講者が科学技術の捉え⽅の視野を広げることを⽬指します。
〇第4回『科学(者)と仏教』
科学の営みは、科学者という主体が世界という客体を観察することによって始まります。ここに主客という⼆分化された図式が成⽴します。ところで、科学者が世界全体を追究しようとするなら、主体となっている⾃分⾃⾝についても考察の対象とせざるを得ません。この回では、近代⽇本の科学者が⾃⾝の研究を仏教的な「⾏」として捉えていった例をとりあげ、科学研究という⾏為について考察します。
〇第5回『現代の科学と宗教―仏教の例から―』
アジアから欧⽶にも広がっている仏教は、世界の本質を理解するための探究⽅法であるという点において、科学との共通点を論じられることが珍しくありません。この回では、ビジネスや医療でも取り⼊れられているマインドフルネスや禅について取り上げ、現代に⽣きる⼈間が科学と仏教や宗教との関わりをどのように捉えることができるのか考察します。
〇第6回『AI時代の科学技術と哲学』
新たな科学技術の登場は、同時に新たな課題を生みます。現代はAI時代と言われますが、AI(特に生成AI)は「心とは何か」「創造するとはどういうことか」といった古くからある問いを多くの利用者に突き付けています。講義では現在どのような課題があるのかを概観し、それらに対して哲学的にどのような議論がなされてきたのかを示します。
〇第7回『研究倫理の教育とELSI∕RRI』
現代の科学者には、⾃分がどのような研究をしたいか、できるか、すべきかといったことを多⾓的に考えることが求められます。この回では、担当者の研究倫理に関する実務者としての経験を踏まえ、現在我が国で推進されている研究倫理教育や、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues: 倫理的‧法的‧社会的課題)、RRI(Responsible Research and Innovation: 責任ある研究‧イノベーション)の考え⽅の普及について紹介します。

[第2部]『仏教の世界観からみる科学技術』
<担当講師:松尾善匠、全3回>
第2部では、第1部で示された現代的な視点を踏まえ、日本の伝統的な思想による現在の科学技術への反応、特に日本仏教の立場からの人間中心主義や動物実験、環境破壊への批判について考察します。古来、日本には、インドを発祥の地とし、中国・朝鮮を通じて伝わった仏教思想が大きな影響を与えてきたのであり、現代の日本社会でも仏教は一定の存在感を持っています。こうした日本仏教の世界観や科学技術への反応を考察することで、現代の私たちの科学技術への理解や態度を捉え直し、科学技術や人間について深く考える際の手がかりを得ることができるでしょう。

〇第8回『科学技術に対する仏教からの反応の紹介』
昨今の論者たちは、仏教の立場から科学技術を批判したり、あるいは仏教と科学技術が融和し得ることを説いたりしています。また科学技術に否定的な態度を取るにせよ、肯定的な態度を取るにせよ、その内実や強度は論者によって異なります。第8回では仏教についての基本的説明を補足しながら、このような「仏教と科学技術の関係」を紹介し、第2部の講義全体の導入とします。
〇第9回『仏教の人間観・動物観からみる科学技術』
現代の日本では、しばしば仏教の立場から科学技術の人間中心主義的傾向、特に動物実験などに対して厳しい批判が行われ、「仏教の人間観・動物観に立ち返るべきだ」と主張されることがあります。第9回では「あらゆる生物は自身の父母である」、「人間もあらゆる生物に生まれ変わる」という仏教の人間観・動物観を学び、「上記のような仏教側からの批判は有効なのか」、「仏教の人間観・動物観を現代に活かすことは可能なのか」を考察します。
〇第10回『仏教の自然観からみる科学技術』
現代の日本では、しばしば仏教の立場から科学技術による自然破壊が批判され、「仏教の自然観を今こそ取り戻すべきだ」と主張されることがあります。その逆に、「仏教の考え方はロボット工学などの科学技術に貢献できる」と言われることもあります。その時、仏教では自然をどのように捉えているのでしょうか。第10回では「自然全てが仏となる」、あるいは「自然は仏である」という日本仏教の自然観を学び、それを踏まえて仏教の自然観を現代に活かすことの是非やその可能性を考察します。

[第3部]『パラダイムを扱うというアプローチについて̶環境・社会課題と人間̶』
<担当講師:田中基寛、全5回>
科学技術が内包する「専門化」が生んだ「環境問題」は20世紀後半~末に世界的な課題となり、「地球の有限性」を示しました。21世紀初頭、環境問題は「社会課題」を取り込んで拡大し「SDGs(国連の「持続可能な開発目標」)」という世界合意に結実しました。その「ESG投資」コンセプトによる「『社会課題解決』の経済活動への内部化」が進み、わたしたちはその実効性の検証フェーズの只中にいます。こうした人間活動の進化を俯瞰するとともに、その過程で登場してきた「パラダイムを扱うというアプローチ」を含む、「パラダイム」を巡る「実践の知」について考察します。

〇第11回『クーンのパラダイムと大橋のアプローチ』
トーマス・クーンの「パラダイム」と大橋力に拠って、科学技術が「高度専門化社会」を生み、専門のはざまに「環境問題」が生じるという視点を提示します。科学技術に内在する「もの」と「こころ」の分断や「専門分化」への動機がたらした近代科学技術文明の問題と、これに対し大橋の提起したアプローチの現代における可能性を考察します。
〇第12回『科学技術を用いるものが今から考えるべきことは何か』
上記のテーマに関し、田中が倫理学者を訪ね、問題提起を行いました。それに対し倫理学者から考察のためのさまざまな視点・論点が示されました(参考書に掲げた勢力尚雅編『科学技術の倫理II』(2015)にまとめられた)。その視点・論点を紹介するとともに、現在の状況に照らして不変なのか、あるいは変化が起きているのかについて考察します。
〇第13回『環境問題の社会的な制御-気候変動とTCFD提言』
企業にとっての環境問題・社会課題の位置づけは「社会的責任(=コスト)」でしたが、21世紀最初の四半世紀の間で劇的に変化し、サステナビリティは「競争軸」として位置づけられようとしています。2010年代に生まれた「ESG投資」のコンセプトが「外部不経済の内部化」圧力として現実に企業を動かし、「脱炭素経済」化はその中心軸となりました。この質的変化の過程を概観し、「科学の社会的な制御」の戦略性及び「科学の問題の解決」への寄与について考察します。
〇第14回『科学技術が創るフロンティアは経済活動にフロンティアをもたらすのか』
科学技術の恩恵と脅威(社会の破壊)の両側面について、急速な進展を感じさせる先鋒が近年のAIかもしれません。2026年に入り、ほとんどすべての経済活動主体は経営上の対処を迫られています。前回扱った「外部不経済の内部化」戦略は今後どうなるのか、「科学技術が創るフロンティアは経済活動にフロンティアをもたらすのか」の観点で点検します。
〇第15回『社会課題と個人をつなぐアプローチとしてのパラダイム』
「社会課題」対処する推進力・動因は、「個人は世界と直接つながっている」感覚の広がりではないでしょうか。このような見通しから、日本のSDGsの現場でも適用が試みられている「パラダイムを扱うというアプローチ」を紹介し、脱専門分化への道筋と、専門家と非専門家の共創、一人ひとりがなし得ることについて考察します。

実務経験を活かした授業内容

第1部を担当する⼩濵聖⼦は、お茶の⽔⼥⼦⼤学⼤学院にて⽇本倫理思想の研究とともに研究倫理の教育活動を⾏い、2020年7⽉からは国⽴がん研究センター東病院や東京⼤学医学部にて医学系研究倫理審査に関する実務に従事した。これらの実務経験を踏まえて講義を⾏う。

第3部を担当する田中基寛は、三菱電機株式会社にて環境行政及びサステナビリティ事業推進に従事(2004年度~2025年度)。環境行政業務として主に、「環境報告(環境に関する企業による情報開示)」の編集長、グローバル環境マネジメントシステムの構築を担当した。また、2017年度~2019年度は同社伊丹製作所にて国際規格ISO14001:2015年版を導入した。サステナビリティ事業推進に関しては、2021年度から発足したサステナビリティ推進部にて「気候変動」に関してTCFDを通じたガバナンス・リスク管理プロセスを構築し、「サーキュラーエコノミー」に関して、三菱電機-東京大学社会連携講座(持続可能な循環経済型未来社会デザイン講座)参画や、廃プラスチックの有効利用率を向上させる資源循環DXソリューション「RaaS」(Recycle as a Service)のサポート等、複数プロジェクトに従事した。2023年10月からは、サステナビリティ・テックによる社会課題解決型事業創出プロジェクト(GIST:Global Initiative for Sustainable Technology)に参画、2024年度から組織化されたサステナビリティ・イノベーション本部にて、サステナビリティ事業推進部 GISTプロジェクト推進室に2025年度まで勤務。以上の実務経験を踏まえて講義を行う。

授業時間外の学習

各回の講義内容について復習に努めること。
予習として、各部の課題レポートに向けて準備を進めること。
そのほか必要な学習については、各担当講師の指示に従うこと。

成績評価方法および評価基準

[成績評価方法]
[1]4名の担当講師がそれぞれ「課題レポート」(論述形式)を課す。
[2]課題内容・期限・注意事項などの詳細は、各講師の担当回のなかで説明する。
[3]4つの「課題レポート」の合計得点で評価する。得点は担当回数に比例して、次のように按分する。小濵2:松尾1:田中+高橋2。
[4]上記の配点にかかわらず、各講師の「課題レポート」をすべて提出しなければ、「不可(D)」とする。
[5]「課題レポート」の提出はWebClassを用いて電子的に行う。履修者は必ずWebClassにメンバー登録すること。

[評価基準]
[1]講義の内容を理解している。
[2]講義の内容について自ら考察している。
[3]理解した内容・自ら考察したことを明確に論述している。
[4]そのほか、各担当講師が指示する個別の評価基準等を満たしている。

オフィスアワー・授業相談

〇担当講師全員が非常勤講師であり、特定のオフィスアワーは設定できない。
〇講義全体にかかわる質問は、高橋が対応する。「公開E-Mail」欄を参照。
〇個別の授業内容や課題などについての質問は、各講師が対応する。
〇対面授業では、講義の前後に担当講師が質問に対応する。
〇講師にE-Mail、WebClassのメッセージなどで連絡する際は、氏名・学籍番号・科目名「科学技術と人間」を明記すること。

学生へのメッセージ

第1回のガイダンスで全体の説明を行うので、履修希望者は必ず受講して内容を確認してください。

その

第2回担当の高橋は、長崎県壱岐市より遠隔授業を行う。

キーワード

SDGs
アリストテレス
パラダイム
人間存在
仏教
倫理
古代ギリシア
国連の「持続可能な開発目標」
幸福
日本思想
環境
社会課題
科学技術
自然
最終変更日時: 2026/04/06 23:26:26