(授業内容)
この授業では『公共哲学』をセミナー形式で一緒に読み進めていくことを通じて、サンデルによる論証を丁寧に再構成し、分析していきます。こうした分析的な読解を通じて、正義に関する基本理論と社会の間の関係を理解するだけではなく、さらにその背景にあるサンデルのより広範な倫理思想を把握することを目指します。具体的な授業の内容は以下のとおりです。
第1回:イントロダクション
公共哲学とは何か 授業の進め方、成績評価の説明。テキストの導入部から道徳・宗教的価値観と政治の関わりについて概観する 。 (『公共哲学』、「はじめに」)
第2回:アメリカ政治と公共哲学の変遷
リベラルな自由観と共和主義的な市民的徳の対立、コミュニティの紐帯の喪失など、第1章から第7章までのエッセンスを解説する 。 (『公共哲学』、第1~7章)
第3回:市場の道徳的限界(1):宝くじ・教育・公共空間
宝くじ、学校への企業広告の導入、公共空間のブランディングについて、市場の論理が市民性に与える影響を議論する 。 (『公共哲学』、第8~10章)
第4回:市場の道徳的限界(2):スポーツ・歴史・能力・環境
スポーツの商業化、歴史遺産の売買、能力の市場化、汚染権取引といった事例から、市場が馴染まない領域を特定する 。 (『公共哲学』、第11~14章)
第5回:[発展講読]能力主義と正義
「能力の市場化」の議論を拡張し、現代社会の格差と分断の根源にある能力主義の問題を掘り下げる。(マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』より抜粋)
第6回:公共生活における道徳:正義・名誉・生命倫理
アファーマティブ・アクション、犯罪被害者の権利、政治家の嘘、そして幹細胞研究を題材に、名誉や報いの概念を論じる 。 (『公共哲学』、第15章~20章)
第7回:リベラルな寛容と道徳的議論
妊娠中絶や同性愛の権利を巡る最高裁判例から、リベラルな中立性の限界と、実質的な道徳的議論の必要性を考察する 。 (『公共哲学』第21章)
第8回:自由主義の理想と「メンバーシップ」としての正義
カントやロールズの自由主義の道徳的基礎を確認しつつ、ウォルツァーの議論を通じて共同体への帰属の意味を問う 。(『公共哲学』、第22、24章)
第9回:負荷なき自己と手続き的共和国
サンデルのコミュニタリアン的批判の核心である「負荷なき自己」の概念を精読し、現代リベラリズムの人間観を検討する 。(『公共哲学』、第23章)
第10回:自由主義の多様性と人間の傲慢さ
個人主義の限界、デューイのプラグマティズム、そして生命工学における人間の「傲慢さ」について論じる 。 (『公共哲学』、第25~27章)
第11回:[発展講読]生命倫理と「授かりもの」としての命
「人間の傲慢さ」の議論を深め、遺伝子工学や能力増強に対する道徳的懸念を「才能は授かりものである」という観点から掘り下げる。(マイケル・サンデル『完全な人間を目指さなくてもよい理由』より抜粋)
第12回:ロールズ『正義論』入門
次週の批判的検討の前提として、ジョン・ロールズの『正義論』(無知のヴェール、格差原理など)の基本概念を整理する。(マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』第6章)
第13回:政治的リベラリズムを巡る論争
後期ロールズの『政治的リベラリズム』に対するサンデルの重厚な批判論文を読み解き、正義と善の関係について総括的に議論する 。 (『公共哲学』、第28章)
第14回:コミュニタリアニズムの批判的検討(1)
ウィル・キムリッカの分析を補助線とし、サンデルらの議論を客観的な政治理論の枠組みの中で評価する 。(『公共哲学』、第29~30章および ウィル・キムリッカ『現代政治理論』より該当章)
第15回:コミュニタリアニズムの批判的検討(2)
国家の中立性や状況づけられた自己などの概念について、リベラリズムとコミュニタリアニズムの論争の到達点を確認する。(ウィル・キムリッカ『現代政治理論』より該当章)
※セミナー形式で行う授業のため、授業の進度は受講者との議論の性質に大きく左右されます。上記のプランはあくまでも一つの目安です。予定より早く進んだ場合、サンデルの他の論文や著作の一部を読む予定です。
(進め方)
1回につき教科書を20~40頁程度ずつ読み進めていきます。毎回指名した受講者に教科書の内容をレジュメにまとめて発表してもらいます。次に、受講者の発表に対して担当教員が簡単なフィードバックを行います。その上で、事前に集めた受講者の質問に答えながら教科書の内容について参加者全員で議論していきます。
※受講者数によっては授業の進め方を変える可能性があります。受講者が少ない場合、担当教員も何回かレジュメ発表をする可能性があります。受講人数が多い場合、レジュメ当番を設定せずに、担当教員の解説と参加者全体の議論のみで授業を進める可能性があります。